あなたはマイノリティ? 「正欲」
異常性欲。この作品に対して、とある論評で使われていた言葉だ。その単語を使った方に悪気はないのだろう。
だが、この作品について話をするにあたっては、あまり適切ではない単語のように思える。
「異常」という言葉を使った時点で、論じる人間は「普通」という対岸からの傍観者になってしまうからだ。
「普通」と「異常」。その言葉を使ってしまうその心理こそが、この作品が問いかけているものではないだろうか。
あらすじ
不登校になった息子が世間から外れることを怖れる検察官、寺井啓喜(稲垣吾郎)。とある秘密を抱えて生き苦しさを感じている販売員の桐生夏月(新垣結衣)とその秘密を共有する中学の同級生である佐々木佳道(磯村勇斗)。準ミスターキャンパスに選ばれるが、他人との関わりを避ける大学生・諸橋大也(佐藤寛太)と学園祭実行委員を務める神戸八重子(東野絢香)。物語が進む中で登場人物たちは交差し、自分自身の内側にあるものに向き合っていく。
「異物」であっても、生き抜くために
昨今のBL系作品の人気により、ゲイもある程度は「世間に受け入れられるようになった」と言っても良い雰囲気がある。
とはいえ、まだ「普通」に圧力を感じて、息苦しさを感じる場面があるという話も、それなりに聞く。
もし、あなたが「この世界にとって、自分は異物だ」と感じたことのあるならば、この映画を観てください。
あなたとは違う苦しみかもしれないが、同じように感じている仲間がいることを知れるだろう。
そして、どうやってこの世界を生き抜いていけば良いのか。そのための力を分けてもらえるでしょう。
これはリトマス試験紙
この作品について何人かと話をし、感想を読んだが、その時に感じたのは「観る人によって受け取れるメッセージが異なる」ということだ。
寺井の視点で観る人にとっては、「変な人間もいるものだ」と笑い飛ばしてしまいたくなる物語なのかもしれない。
一方で、夏月や佳道の視点から観る人にとっては「自分たちのための物語」として受け取る人もいるだろう。
だが、この作品で描かれているのは両者の対立ではないのではないか。
夏月と佳道による終盤の寝室のシーン、そして小説版でしか書かれていない二人の「普通」の同級生についてのエピソード。
そこで「マジョリティとマイノリティ。どちらの側にも、共有できる感覚がある」ことを示してくれているように感じる。
誰もが何かしらの「圧力」を受けているのだ。自分が「マジョリティだ」と信じ込んでいる人も、それぞれが信じる「普通」に縛られ、そこから外れることを恐れている。
目の前にいる平然とした顔に見える相手もまた、あなたとは別の種類の「圧力」を受けているのかもしれない。
だとしたら、戦うべきは「あいつら」ではなく、「圧力」だ。
そのために「共闘」できるようになれば、この世界はひとりでも多くの人が自分らしく生きられる場所になっていくのかもしれない。