
小夜子への手紙 − キヨンセみたいに生きていきたい −
この記事は「ばにたす小夜子の人生糸電話(仮)」と題し、女装ツイッタラーで有名な、ばにたす・小夜子が往復書簡の形式をとりながら、現代のゲイカルチャーを、ふたりならではの鋭い視点で切り取ったり、切り取らなかったりする連載コーナーです。連載、決定時の記念対談はこちら↓
前略 小夜子様
この度こうしてゲイ向けのウェブメディアで私達の企画が始まったわけだけれど、
LGBTというものを語れるほどの知見も意気込みも私にはないし、 オネエを売り物にしてる人間が、毒舌混じりでウィットに富んだ的確なアドバイスを言う生き物という幻想は時代遅れだと思うし、方向性を考えていたら夏が終わっていたわ。
短くて気まぐれな夏だった…主に天候の面で。
8年前かしら、
初めて彼氏という存在が出来てから夏になると毎週の様に海へ出かけるという、今までの私には無かったスケジュールがカレンダーに組み込まれるようになって、私にとってはそれがとても尊い時間でいつしか”夏”が一番好きな季節になっていたの。
だけどご存知の通り関係が終わりを迎え、海へ行く相手もいなくなってしまったから今年の夏はなんだか好きになれなかった。
ベッドに無造作に寝転んで頭上に腕を伸ばし、小さなスマートフォンの画面というスクリーンに映し出される他人様の幸せの押し売りをひたすら眺めるだけだったわ。
あいつらは報われない人間が人知れず悶々としてしまう事を知らず無邪気にキラキラした瞬間をシェアしてくるから、ちょっとした鬼畜よ。
そもそも目の前が楽しかったらインスタを開いてストーリーを起動し、ボタンを長押しして撮影するプロセスなんて煩わしい筈で、あなたの幸せは誰かに見られる為の幸せなの?って。
こんな事言ってたらひねくれ負け犬ブスの遠吠えって嘲笑されるわね。
クソみたいだったけれどなんだかんだ夏の終わりの感覚にほだされているわ。
外気が涼しくなるとハートにすきま風が吹き荒れるのか無性に切なくなるのよね。「彼氏が欲しい」だとか漠然と思ってしまうし、街中ですれ違う男性が皆、性器に見えるわ。
でも、
幾らファンタジーな恋愛の魔力をもってしても新たな人間関係を構築する気力がなくて、付き合うならロボットが一番いいのかもって本気で妄想してる今日この頃なの。
見た目も性格も何もかも自分好みにカスタマイズした超リアル人型ロボットが気軽にオーダーできるようになって、ロボットと付き合う時代が確実に来るわ。
まあ残念ながら私達がこの世からいなくなった後の話になりそうだけど。
近頃つくづく思うけれど人間って、のべつ幕なしにニュースを生み出すわよね。
暴力、不正、舌禍…
でも私は、こんなに長い間生きてきたのに、黒歴史を生み出すばかりでニュースになるようなドラマティックな出来事なんて何もなかったわ。
肋骨の浮き出たパンクロッカーに憧れてダイエットしていたらいつのまにか重度の拒食症になっていただとか黒歴史をあげ始めたら枚挙に暇がないのが泣ける。黒歴史の総合商社。
ハッピーな話題といえば某演歌歌手の女性化ニュースかしら。
自分の周りを見渡す限り、歓喜の声で溢れているように感じたわ。
主語が大きくなるけれどゲイって心に”女のような何か”がいると思うの。
分かりやすくいえば可愛いものにときめいてしまう気持ちだったり、美しく在りたいという願いだったり形而上的な”何か”。
でもこのゲイのモテ原理主義ともいえる世界を生きる為には表層で”男のような何か”を演じないといけなくて、心の奥底に封印してしまう人が多いように思う。
そんな中、緩やかなミディアムヘアに細眉。顔にはお化粧を施して、臆することなく自らを抑圧から解放した彼の姿に私達は勇気付けられているのかもしれない。
一部ではキヨンセと呼ばれてるらしいわ。
もはやビヨンセよ。知らんけど。
彼の様に自分のこと解放せずに、どうせダラダラと生きながらえているんだったら20年前の自分に
「勉強しろ!飯食え!筋トレしとけ!女装するなら早いうち!大人の意見って割りと間違っていないから従っておいた方が後々の人生楽になるかもよ!」
って小言をしたためた手紙を送りたい。
怠惰に生きてきたツケが回ってくる頃にはお先真っ暗!まさに今現在のことで笑えないわ。
小夜子は最近お元気かしら?
ばにたす @ Twitter
ラグビーって凄いわね。
— ばにたす (@vanitas5) September 20, 2019
私は球技が苦手すぎて自分にボールが回ってくるとパニックになって
奇声を発しながら意味わからない方向へ投げ飛ばして、体育に命かけてるヤンキーによくガチギレされたわ。