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HIV陽性ゲイのリアル#04「いい感じになった人とセックスの雰囲気に。HIVのこと言う?言わない?」

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このストーリーは連載となっています。こちらの記事 − HIV陽性ゲイのリアル連載一覧 − も合わせてご覧ください 。

基本的には「言わない」です。
正しくは「言えない」。

打ち明けたことは何度かあります。その時は「気にしない。言ってくれてありがとう。」とセックス・スタート。

ただ…僕が相手のものをしゃぶり、相手のものを受けるだけ。相手は乳首こそ攻めてくれたものの、しゃぶりはしない。「しゃぶり好きなんじゃなかったっけ?」と言うのも聞けない「しゃぶって」とも言えない。

双方の気持ちが混ざり合うというより、相手の性欲が一方通行で流れ込んでくるセックス。

そして、その後は連絡が取れなくなります。

ただ相性が悪かっただけかもしれない。やれるけど、関係を築いていきたいと思ってもらえなかっただけかもしれない。それは誰でも平等に判断されること。

病気のことを除けば、なんてことはない、よくある「しゃーないか」で済む話です。ですが「やはりHIVをカミングアウトしたから、そうなったんだろうな」という思いが出てきてしまいます。

でも、病気の僕にとっては、それだけでも嬉しいこと。もともと自分に自信がないうえに、さらにHIVという十字架を背負ってしまった。こんな自分にキスして、求めてくれる、それだけで感謝しなければ……と思い込もうとしていました。

「このセックスは何かが違う」とわかっていても。

そんな感じで、カミングアウトした関係は、いつも決まって「相手の無視」で終了でした。仕方ないよね、重たい話だし。どう接していいかわからないというのは、頭では理解できます。

こうして、皮肉にも誠実でいようとしたことで、逆にどんどん「言えない」ようになりました。

正直、どうすれば良いんだろう。

まずは病気のことを抜きに、自分のことを知ってもらえばいいんだろうか。そのためには、「HIV」というフィルターを通さないで仲良くなった方がいいんじゃないか。

その選択肢しか、ぼくには残されていない気がしました。

関係が浅いうちにカミングアウトすると「HIVが全て」になってしまう気がします。ルックス、心、体、センス、セックスという全てが。

でも「HIVは僕の一部」なんです。
ちゃんと他の部分も見てほしいんですよ。

ワガママでしょうか。

僕は、感染がわかったあの日、それまでわりと順調だった人生を全部自分で壊して、新しく作り直しました。仕事をやめ、家を出て。切った人間関係も、諦めたことも、恐らくは感染していない人の比ではないと思います。(まあ、自分で選んだんですけど。)

こんな風に、感染は「過去」ではなく、「現在」も続いているし、きっと「未来」も支配し続けていく。そんな状況下で、

「僕はHIV感染者です」

その一言を伝えたがために、その場はにこやかでも、離れた瞬間関係を切ってくるかもしれない、どんな人かもわからない、「自分を好きなのか、ただケツを掘りたいだけなのかもわからないような人」に言えるわけがないんです。

そう、正当化して自分を守るのが精一杯。

じゃあそれで移してしまったらどうするの?
その人の人生めちゃくちゃじゃん?

「いやいや、うるせーよバーカ」と言うのが本音です。

クソだと思いますか?
クソかもしれません。

もちろん、ぼくにも良心がないわけではないので、これが本当にベストなことではないというのは分かっています。

実際、この生き方は、この生き方なりの歪みを生んでいる。

特に困るのが、「セックス何度かしてバイバイでしょ」と思っていたのに、付かず離れずのセフレ関係になってしまうようなとき。

最近になってセックス以外の側面でも魅力を感じ始めてしまい、実際に距離が少しだけ近づいてしまった実感がある人がいるのですが、そうなると、言っていないことが後ろめたさになって、胸を締め付けます。

かと言って、「言うべきか」と問われると、
No、言えません。まだね。
まだそこまでは、お互いを深く知らないので。

打ち明けたら即去っていくでしょう。
もしかしたら殴られるかもしれない。
訴えられるかも。

そんな不誠実だと思われることを、自分がしている自覚もあります。

「関係はどうなろうとも、ちゃんと向き合ってくれる、なんなら強引にでも向き合わせてくるだろうな」くらいに思えたら、安心して言えると思うけれど、そこまで人を信用するのは、まあ難しい。

なぜなら、

一番怖いのは相手が傷つくことじゃない。しれっと相手が去って、孤独になることでもない。

相手が僕の元から去ったその後、僕が人生ひっくり返して積み上げた「新しい今」と「守ってきた秘密」を周りにサラッとアウティングされること。

それが一番怖いんです。

ある日、こんなことがありました。

知り合い以上友達未満みたいな人数名で、とある大型ナイトイベントに行った時のこと。

バス待ちも兼ねて飲んでいるときに、

「ねぇ、AくんってHIVなの?」と、冗談まじりで発言した知り合いBくん。

Aくんは「はぁー!?なにそれ!?違うよ違うよ!いや、え、そうなのかな?検査いってこようかな。」

なんてすかさず答えていましたが、おそらく彼はポジではなかったのだと思います。

Bくん曰く、ゲイの飲み会である男が、Aくんの写真を見せて「こいつポジだよ」と言いふらしていたと。

Aくんはいわゆる「こっち受けする」感じで、タチウケ年上年下問わず、よくモテる人でした。恐らく振り向いてくれないことに逆恨みしての悪意あるウソだろうと思います。

その場では、僕は笑って「ひでーww」と言いましたが、内心ひたすらに怯えていました。

その後は生きた心地がせず、ここでいきなり消えたら、自分がHIVって疑われるかもしれない。そんな考えが、ぐるぐる頭を巡って、酔えず楽しめず。サプライズで来ていた有名歌手のステージも上の空でした。

こんな会話が、自分の周りで、ちょっと面白いネタでも語るように繰り広げられている。

誰かがカフェで友達とアプリ開いて、ぼくのお粗末なアイコンが出る「この人ポジ」「なんかぽいよね〜」。こんな風に、どこかで囁かれて、その噂が爆発的に連鎖する……。そんな状況は容易に想像できます。

ただでさえ生きにくいのに、余計に人生を追い込まれるリスクを前に、やっぱり簡単に言えないんです。本当に怖くて仕方ありません。それくらい、アウティングには怯えています。風化しない恐怖。

大切な秘密を簡単に打ち明けられないのは誰でも同じだと思います。

治療が安定して「移す可能性が限りなくゼロに近い」(※限界検出以下のHIV感染者から感染するリスクは、ほぼ無いという研究結果が発表されている [参照])という事実がある以上、

僕にとっては

自分の秘密 > 相手への誠意

というパワーバランスにならざるを得ません。

言わないことを責めるも責めないもあなたの自由ですし、正直、ぼくもこんなこと考えずにオープンにしてられるくらい病気に対する理解が広まったらいのにと思います。

こうして連載を持つことに決めたのも、そんな気持ちがあるからなのかもしれません。

HIVの感染者が、全てぼくみたいな考え方をしているわけではないですが、いち感染者の気持ちを誰かに知ってほしくて、少しでも何かが変わればいいと思って。

これは、ささやかなお願いなのですが…

もしあなたが、誰かに「ぼくはHIVなんだ」と打ち明けられたら、あなたのことが大切で、あなたに向き合ってもらいたいからだと思います。

特別な言葉はいりません。「HIVである彼」ではなく、「彼」をまず見てあげてほしいのです。性格でも体のことでも相性がイマイチだったら、「HIVというより、〇〇な部分が…」と理由を言ってほしい。

病気を盾にしたワガママかもしれません。でも、そんな態度をとってくれる人がいるという経験があれば、どれだけ心救われるだろうと思うのです。

僕はクソ野郎かもしれませんが、HIVを理由に、幸せを諦める人がもっと少なくなればいいなと本気で思っています。まだ、自分のことをオープンにはできない僕ですが、いつかこの問いに対して前向きな答えを見つけたいなと思います。

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